子どものケガを減らす受け身の習得法|恐れず挑戦できる体を育てよう

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転倒時に身を守る術を身に付けておこう

記事をご覧いただきありがとうございます。管理人の3kです。

これまで日本社会では安心・安全のための取り組みが様々な分野で行われてきています。

地域住民が利用する公園においても、設置遊具の点検や整備、撤去、使い方の周知をはじめ公園利用のルール増加など利用者が安全に利用するための対策が講じられてきました。

しかし子どもにおいては、公園は力いっぱい遊ぶための場所であるが故に、ケガをするリスクは高い傾向にあります。

そこで100%防ぐことは極めて困難ですが、大ケガのリスクを下げるために、身を守る術を身に付けることは必要であると考えます。

本稿では、遊具をはじめとした高さのある場所からの転落を除く、平地で転倒した際の身の守る術の重要性について記述していきます。

公園利用に潜む危険性については以下の記事で詳しく説明しています。

子どもの転倒が起きるシチュエーション

 公園利用で起きる子どものケガに関するデータは、遊具からの落下をはじめとした遊具関連が占めており、運動遊びにおける平地での転倒によるケガまでは含まれていません。

その理由としては、遊具事故や交通事故の様に明確な報告経路(警察庁・消費者庁・消防庁など)がありません。

また医療機関に掛った場合でも、医療データに発生機序(ケガをした状況)が欠落している場合もあります。

他にも軽傷だった場合には医療機関に掛らずに対処することも多々あります。

そのため転倒によるケガが発生していないわけではなく、見えな状態になっていることが現状です。

そこで、公園だけに限定するのではなく、多様な環境で起きた事故情報データベースにある転倒に関連する事象を参考に考察してこうと思います。

こども家庭庁(2024)の「教育・保育施設等における事故情報データベース」によると、以下のような傾向がみられます。

  • 多くは遊びや移動の最中に発生(例:ボール遊び、走行中、移動中のつまずきなど)
  • 他児との接触・衝突による転倒も頻出(例:ぶつかって頭部や顔面を打つ、歯の損傷など)
  • 環境要因として、滑りやすい床・芝生・段差・障害物が関与
  • ケガの種類は、上肢骨折(手・腕)、顔面・歯の損傷、膝の擦過傷などが多い

つまり、単なる「滑って転ぶ」だけでなく、接触や障害物による転倒が多く、受傷部位は手・顔・口・膝に集中しています。

また小学生におけるケガの多くが「転倒」によるもので、全災害の約4割を占めている(独立行政法人日本振興スポーツセンター,2024)というデータもあります。

「転倒」でまとめられておりますが、個別的にみれば、それぞれの受傷機転やケガ等は異なります。

転倒を紐解く複数の視点

上記の通り、「転倒」の受傷機転は一つではなく環境(自分自身と周囲との相互関係)によって異なり、ケガの程度にもグラデーションがあります。

「転倒」の解像度を上げる為に複数の要因を以下に挙げます。

視点具体例
転倒の原因つまずき・滑り・接触
転倒の環境屋内・屋外・平地・遊具
転倒の方向前方・後方・側方
受傷部位・力の方向頭部(後方回転力)・顔面(垂直・斜め)・腕(垂直方向)
ケガの種類骨折・脱臼・打撲・捻挫
転倒時の身体動作・受け身の有無直立姿勢で胸付近を前方から強く押され、身体が伸び切った状態で後方に倒れ、受け身を取れずに腰背中・後頭部を地面に強打した。
地面の材質アスファルト・土・芝
服装長袖長ズボン・半袖半ズボン・ヘルメット・サポーター

具体例においては、一部にすぎません。例えば、「受傷部位」や「ケガの種類」が複数ある場合は多くあります。

特に、頭部や顔面部への衝撃や回転力による揺さぶりは脳へのダメージも懸念されます。

地面の素材が硬いもの(例:アスファルト)ほどダメージが大きくなりますが、柔らかい(例:マット・砂場)又は衝突していないからダメージがないわけではありません。

衝撃の強さよりも「回転慣性」の大きさが重要になります。水の中に浮かぶ脳が頭部の回転やその反動で揺れることでダメージとなります。

「服装」においては、上記の頭部への衝撃対策としてヘルメットや衝撃吸収材入りの帽子の着用が明確に効果があります。サポーターの着用においても「皮膚を守る」だけでなく、衝撃エネルギーを分散・吸収し、関節や骨への負担を減らすという力学的な意味でも重要です。

そして「受け身の有無」も身体へのダメージを少なくするために大事な身体操作です。

受け身とは、頭頚部を守るために衝撃エネルギーを分散・回避する身体操作であり、転倒という不可避な外力の中で、人が自らの行動によって結果を唯一変化させることができる能動的スキルです。

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転倒で比較的多くみられるパターン

転倒には実は「よくある典型的なパターン(型)」が存在します。それは人の姿勢や重心移動、反射動作の特徴によって自然に起こりやすい方向が決まるからです。

前方・後方・側方・回旋ねじれ型に分けて説明していきます。

前方転倒

前方転倒のイメージgif画像

転倒の中で最も頻度が多く「手をつく」本能が働くパターンです。

歩行中や走行中に、後方からの接触(押す・タックル)・前方からの引っ張り・つまずき・段差・滑りなどで重心が前方に出すぎて下肢の支えが追いつかず、上体が前へ倒れ込みます。

「運動学的なプロセス」は以下になります。

つまずき/重心前方移動

支持脚がつまずく・滑る、または外力(接触など)によって支持が失われると、身体重心(COG)は前方へ移動し、その慣性が持続します。

この時、支持基底面より前方へ重心線が逸脱し、前方への回転モーメントが発生します。

わかりやすくしますと、歩いたり走ったりしているときに、足がつまずいたり滑ったり、または何かにぶつかったりすると、体を支える力がなくなって重心が前にずれていきます。

このとき、体の勢い(慣性)がそのまま前に進もうとするため、体全体が前に倒れ始めます

手を前に出す反射(伸展反射)

頭部や体幹を保護するために、両上肢が反射的に前方へ伸展します。これは「転倒防止反応」として知られる自動的な防御動作です。

わかりやすくしますと、頭を守るために、人は反射的に手を前に出して倒れようとする方向に伸ばしますこれは無意識に起こる自然な防御反応です。

接地順序のパターン

転倒中は、身体が前方へ回転しながら地面に接地していき、一般的には次の順に接触が生じます。手掌 → 前腕 → 肘 → 膝(または顎・顔面)。

衝撃吸収

主に手関節と肘関節で衝撃を吸収します。

ただし、ダッシュやスプリント時のように前方回転モーメントが大きく、転倒速度が速い場合は、手を接地する前に膝・肘・体幹・顔面が直接接地することが多くなります。

わかりやすくしますと、転んだときの衝撃は、主に手首や肘で受け止めます。

ただし、走っている最中やダッシュ中などスピードが速いときは、勢いが強すぎて手を出す間もなく、膝や肘、体、顔などが直接地面にぶつかってしまうこともあります。

結果

転倒の結果、上肢の骨折・捻挫、および顔面・頚部への外傷が生じることがあります。

特異的な損傷を以下に記載します。

  • 橈骨遠位端骨折(コーレス骨折)
  • 舟状骨骨折
  • 肘打撲
  • 鎖骨骨折
  • 顎や鼻の裂傷(顔面から落ちた場合)

後方転倒

後方転倒のイメージgif画像

受け身が取れない場合、後方転倒は頭部損傷に直結します。立位で前方からの接触(押す・タックル)や引っ張り、滑りなどにより重心が後方へ移動し、支え足が反応できずに尻もち・背中・後頭部から落下することで生じます。

特に高齢者やバランス能力の低下した人に多いものの、運動遊びやスポーツの中でも発生します。

頭部外傷のリスクが最も高い転倒であり、死亡事故や重度後遺症につながるケースも少なくありません。

「運動学的なプロセス」は以下になります。

重心の後方移動

前方から押される(例:タックル・手押し相撲・人との衝突)、腕を引っ張られる(例:綱引き・引っ張り合い遊び)、滑る、段差につまずく、立ち上がり時のバランス崩れ などにより、体全体の重心線が足裏の支持基底面より後方へ移動します。

要するに、体の中心(重心)が足の支えよりも後ろにずれてしまい、バランスを失います。

支持反応の遅れ

重心が後方に移動すると、本来は足を後ろに出す・体幹を前傾させることで姿勢を立て直します。

しかし、後方転倒ではこの反応が遅れる・間に合わないのが特徴です。

支持基底面を再構築できず、身体全体が後方へ回転し始めます。

接地順序

重心が崩れた身体は、慣性モーメントによって後方回転運動を起こします(一度後ろにバランスを崩すと、体の重さと動く勢いによって、体が止まらずに後ろ向きに回転していく)。

臀部(おしり)・仙骨部(腰の下部)が最初に接地(初期衝撃)します。

骨盤を支点として上体が回転し、慣性で後方へ倒れ込み、最終的に後頭部が地面に叩きつけられます。

この「臀部 → 仙骨 → 後頭部」という接地順序は後方転倒に特有であり、衝撃が連鎖的に脊柱軸(仙椎→腰椎→頚椎)へ伝達します。

結果

後方転倒時の衝撃は、頭部・頚部に集中します。

頚部過伸展(hyperextension):後頭部が接地した反動で首が後方へしなり、頚椎に過伸展ストレスが加わります。

わかりやすく言うとと後頭部を打つと、首が大きく反り返る(過伸展)動きが起き、首の骨や筋肉に強い負担がかかります。

反動による再衝撃(rebound impact):頭部衝突後、慣性で再度前方へ反動し、脳内で揺さぶり(脳震盪・脳挫傷)を起こします。

わかりやすく言うと頭を地面にぶつけたあと、その反動で頭がはね返るように動き、もう一度中で衝撃が起こります。ちょうどボールが地面に当たって跳ね返るようなイメージです。

特異的な損傷を以下に記載します。

  • 後頭部打撲・脳震盪
  • 頚部捻挫・むち打ち
  • 仙骨・腰椎圧迫骨折
  • 腰背部打撲

側方転倒

側方転倒のイメージgif画像

側方への転倒は、高齢者の骨折の中でも最も重大なパターンです。特に大腿骨頚部骨折の主な原因となり、骨折率も非常に高くなります。

また、倒れた側の肩や肘、肋骨なども同時に損傷しやすい転倒です。

発生のきっかけとしては、方向転換の際のふらつきや、足のもつれ、片足立ちでのバランス喪失などが挙げられます。

これらにより体が横へ傾き、片側の臀部や肩から地面に倒れ込みます。重心が片側に大きくずれるため、支え脚で体を保てず、体の側面から落下する形で転倒が起こります。

「運動学的なプロセス」は以下になります。

片脚支持期のバランス喪失

(体が片足で支えているときに、段差や滑り、足のもつれ、あるいは横からの接触・引っ張りなどが加わると、バランスが崩れやすくなります。

このとき支え脚だけで体を支えきれない状態になります。

重心が横方向に逸脱

外力やバランス喪失により、重心が体の横方向にずれる状態になります。支え脚や上体の反応が間に合わないと、体が横に倒れ始めます。

支持反応の限界

通常は腕や脚、体幹で倒れそうな方向に支えを入れますが、反応が間に合わない場合、体は側面から地面に倒れ込みます。

特に高齢者やバランス能力が低下した人では、この段階で転倒がほぼ避けられません。

結果

側方に倒れると、肩・肘・大腿外側などがほぼ同時に接地することが多くなります。そのため、大腿骨頚部骨折、肩や肘の打撲、肋骨骨折などのリスクが高くなります。

特異的な損傷を以下に記載します。

  • 大腿骨頚部骨折(特に高齢者)
  • 上腕骨近位端骨折
  • 肋骨骨折
  • 肩鎖関節損傷

回転ねじれ転倒

回転ねじり転倒のイメージgif画像

回転ねじれ転倒は、スキーやスノーボード、サッカーなどのスポーツでよく見られ、動きの多い状況で起こりやすい転倒です。
この転倒では、走行や滑走などの動的な状況で、転倒の瞬間に身体がねじれながら地面に接触します。その結果、直線的な衝撃(真っすぐ押される力)と回旋トルク(ねじれる力)が同時に加わり、関節損傷を伴うことが多くなります。

また、方向の予測が難しいため、反射的に受け身を取ることが非常に困難です。

「運動学的プロセス」が以下になります。

軸足固定+上体回転

走行中の方向転換、接触(タックル・押す引っ張り)やジャンプの着地失敗は、片足や軸足が地面に固定された状態で、上体が回転やねじれ動作を伴います。

このとき、膝・腰・肩などの関節にねじりストレスがかかります。

慣性による回転運動の持続

倒れる瞬間も体には慣性が残っており、回転やねじれ運動が続くため、接地方向が予測しにくくなります。

回転を伴った接地

倒れるとき、肩・肘・膝・腰などの関節に、直線的衝撃と回転力が同時に加わる状態になります。

その結果、関節損傷や靭帯損傷を伴いやすくなります。

特異的な損傷を以下に記載します。

  • 膝前十字靭帯(ACL)損傷
  • 足関節捻挫・剥離骨折
  • 肩関節脱臼・鎖骨骨折
  • 体幹の捻挫、頭部打撲を合併

骨折が起こる主な要因

上記では転倒でよくあるパターンを紹介しました。しかし同じパターンの転倒であっても、特異的な損傷が複数あります。それは、パターンが同じであっても個別のディティールは全く同じではないためです。

上記の「転倒の要因」だけでなく、例えば年齢や骨強度、筋力など個人が持つ内的要因も深く関わります。

外的要因(外力や環境条件)

転倒時に身体へ加わる外からの力(外力)の大きさや方向、環境条件によって損傷の種類が左右されます。

転倒方向や速度

相手のタックルで転倒する選手

前方・側方・後方・回転ねじり型など転倒の違いにより、力のかかる部位や角度が異なります。例えば前方転倒 は、手をつきやすく橈骨遠位端骨折、側方転倒は肩関節脱臼を負う可能性があります。

また高いところから転倒、走行スピードが速い状態や強く踏み込んだ際の滑りは転倒時の衝撃が大きくなります。

手のつき方・衝撃の方向

手首や肘関節の角度、回旋方向、接地の仕方によって、骨や靱帯に集中する力の種類(圧縮・牽引・ねじれなど)が変化します。

例として手を着いた際の骨折を例に挙げて説明します。

コーレス骨折

コーレス骨折の受傷機転

舟状骨骨折

舟状骨骨折の受傷機転

スミス骨折

スミス骨折の受傷機転

接地面や環境

床の硬さ・滑りやすさ・傾斜・障害物の有無などが衝撃吸収性や転倒の仕方に影響します。

受け身の習得だけでなく、環境に適した動きや服装・装具も転倒予防において重要になります。

服装・装具

シューズやサポーター・ヘルメットの有無、サイズの適合性などが衝撃吸収や関節保護に関わります。

内的要因(身体の構造的・機能的条件)

同じ転倒でも、個人の身体的特性や運動スキルによって損傷の起こり方は異なります。

骨強度・骨密度

骨の丈夫さを表しています、そのため低下していると、軽い衝撃でも骨折しやすくなります。

しかし、学童期の子どもに対して「毎年骨強度・骨密度を測る」という 全国統一・義務化されたシステム は現在のところ 存在していません。

高齢者の健康診断では、骨密度低下による骨折リスク評価が目的で測定されることが多いです。

筋力・関節安定性・関節アライメント

十分な筋力があると、関節を支え衝撃を吸収できます。しかし筋肉はあくまで部分的な吸収で、衝撃を完全に防ぐわけではありません。

関節アライメント(関節の正しい位置関係・配列)の異常は、「構造的な歪み」だけでなく、「筋・神経・感覚・習慣・心理」のすべてが関与する全身的な問題になります。

例えば足のO脚変形は、荷重バランスが外側に偏るため、支持基底面が狭くなり、安定性が低下し転倒のリスクが高くなります。

柔軟性

柔軟性が低いと関節可動域が狭まり、無理な角度で力を受けやすくなります。反対に過度な柔軟性も関節が不安定で骨・靭帯に過負荷がかかります。

柔軟性は高ければ良いわけではなく、筋力や関節の安定性とセットで評価する必要があります。

運動制御能力・反応性

体操選手や柔道家などは、転倒時に力を分散するような姿勢制御(受け身)ができ、損傷リスクが低傾向にあります。

運動制御能力とは、「神経系(脳・脊髄)」と「筋肉」の協調で、接地の瞬間に関節を安定させる能力を指します。反応性とは敏捷性のような素早く・正確に姿勢や方向を変える能力を指します。

受け身動作のように“技術として身についた動作”の場合は、ここでは単なる反応ではなく、複雑な全身運動を統合的にコントロールする力が求められます。これをコオーディネーション能力と呼びます。

年齢・体組成

発育段階や加齢により骨・関節・靱帯の強度が変化します。

筋肉量は20~30代をピークに年齢ごとに徐々に減少していく傾向にあります。

脂肪量は、加齢とともに体脂肪率は上昇傾向にあり、特に内臓脂肪の増加が特徴です。

骨量においては、男女ともに30代をピークにその後減少傾向にあります。特に女性は閉経後、エストロゲンの低下により骨粗鬆症リスクが増大する傾向にあります。

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「受け身」とは何か?を詳しく解説

柔道

「受け身」は日本発祥の武道技術から派生した「転倒・衝撃を安全に制御する動作原理」です。

受け身(ukemi)の目的は、単に転倒を避けるのではなく、転倒による衝撃やエネルギーを「分散・逃避」させて、身体へのダメージを最小化することです。

そして受け身技術は、転倒や投げられたときの「エネルギーを分散・衝撃を低減するメカニズム」を理論・実験的に支持する証拠が出てきています。したがって、「受け身を学ぶ/転倒予防プログラムに受け身要素を入れる」という考え方は、実践的かつ科学的根拠があると言えます。

ただし、技術習得が前提ですので、「習っていない人がいきなり高度な受け身を期待する」のではなく、段階的な練習・身体機能(柔軟性・筋力・運動制御)と併せた実践が重要です。

留意点・限界

受け身技術が「骨折・重篤な外傷の発生率を直接どれだけ減らすか」に関しては、ランダム化比較試験(RCT)レベルでの明確なデータはまだ多くありません。

それは実際に転倒させて骨折や外傷リスクを比較することは倫理的に困難であるからです。そのため衝撃指標や動作分析などの間接的なアウトカム(衝撃指標や動作分析など)に頼ることが多くなります。

また受け身の習熟度には個人差があり、衝撃吸収・安全性は大きく異なることや転倒頻度の差(非接触型スポーツや一般的な運動遊びと接触スポーツ)では、転倒する機会に明らかな差があるため、受け身を習得しても「効果を統計的に確認する」ことが難しいのが現状です。

「受け身」動作の生体力学的な役割

私たちが転んだとき、体には「地面にぶつかる衝撃の力」が加わります。この力は、どれくらいの速さで落ちたか、そしてどのくらいの時間で止まったかによって大きく変わります。

人の体は立っているだけで、重力によって“高さのエネルギー”を持っています。転倒すると、その高さのエネルギーが“動きのエネルギー”に変わり、最後に地面にぶつかるとき、すべてのエネルギーが体に伝わります。

そのエネルギーを一部分(たとえば腰や頭)で受け止めると、大きな衝撃となってケガにつながります。そのため、受け身をとって体全体で転がるようにすれば、エネルギーが広く分散し衝撃が小さくなります。

受け身で働く力学的原理を以下に4つ記載します。

メカニズム内容
接触面積の拡大複数部位(腕・背中・臀部など)で接地して衝撃を広く分散します。
衝撃時間の延長転がる・滑ることで「止まるまでの時間」を長くし、ピーク衝撃を低減(インパルスの法則)します。
衝撃方向の変換垂直方向の衝撃を、斜め・回転方向に逃がすことでエネルギーを安全に分散します。
頭部の保護首の屈曲・回旋でさせて頭を打たないように制御します。

力学的にみても受け身とは、衝撃を「力学的にいなす」動作であり、身体を守るための最適なエネルギー制御技術といえます。

受け身の種類の紹介

「転倒」のパターンである前方・後方・側方に分けて、ベーシックな受け身のやり方について説明してきます。

あくまで基本的な動作としての受け身であり、スポーツによっては受け身そのものが競技スキルの一部として発展・応用されている場合もあります。

前方の受け身

前方への受け身

顔や胸部を地面に打ちつけないようにし、腕全体で衝撃を分散さます。

  • 倒れそうになったら、ひじを軽く曲げて前方に腕を出します。
  • 手のひらではなく、前腕(ひじから手首の間)全体で地面に接触します。
  • 頭を横に向けてあごを引きます(顔をぶつけないようにする)。
  • 接地と同時に、ひじと肩、胸、腹の順に地面に沿って力を逃がします。

前回り受け身

前回り受け身のイメージgif画像

前に倒れたとき、頭や腕を守って転がり、衝撃をやわらげます。

  • 足を肩幅ぐらいに開きます。
  • 右足(左足)を半歩前に出します。
  • 後ろ足側の腕を前足と同じ線上に置きます。
  • 前足側の腕を上記の中央付近に小指側(小指が前方)から地面に接地するようにします。
  • あごをを左肩(右肩)に乗せます。
  • お尻を上げながら、前に回ります。
  • 最終的に横受け身の体勢になります。

※最終的に立ち姿勢になるやり方もあります。

後方の受け身

後方の受け身

頭部を守り、背中で衝撃を吸収しながら安全に倒れます。

  • 倒れそうになったら、あごをしっかり引いて頭を守ります。
  • 背中を丸めて(猫背のように)、腰から順に背中全体で接地します。
  • 接地と同時に、両腕を斜め後方に振り下ろして地面をたたくきます(手のひらを下に)。
  • 手首やひじに頼らず、背中と腕の面全体で衝撃を受け止めます。

後回り受け身

後回り受け身のイメージgif画像

後ろに倒れたとき、頭や背中を守りながら丸く転がって衝撃を逃がします。

  • 足を肩幅ぐらいに開いて立ちます。
  • 右足(左足)を半歩前に出し、半身の姿勢になります。
  • 顎を軽く引き、膝を軽く曲げ重心を落とします。
  • ※1腰を落としながら同時に右手(左手)を肩と平行になるまで挙げます。
  • 顎を引きながら背中を丸めて、背中の上ではなく右肩(左肩)の付け根あたりから転がります。
  • 真っ直ぐ後ろではなく、 斜め後ろに円を描くように 回ります。
  • ※2回転が終わる頃に、片足または両足を出して姿勢を立て直します。

※1:上級者の場合は、補助である手を肩と平行になるまで挙げる必要はありません。

※2:最終的に立ち姿勢になるやり方もあります。

側方の受け身

側方への受け身

肩や腰を守り、身体の側面で衝撃を分散させます。

  • 倒れる方向に体を自然に回転させ、肩をすくめてあごを引きます。
  • 横の腕を曲げ、ひじと前腕全体で地面を受けます。
  • 肩・背中・腰を順に地面につけて、力を逃がします。
  • 倒れた反対側の手は胸の前に置き、バランスを取ります。

以上が一般的な受け身の紹介になります。スポーツの動きには、競技の特性に応じた受け身の要素が多く含まれています。

柔道やレスリングでは、受け身は投げられた際に衝撃を吸収し頭部や背部を守るための基本技術です。ラグビーのタックル後の転がり方、バレーボールのフライングレシーブ、サッカーのゴールキーパーのセービング時の倒れ方にも、受け身と同じ原理が生かされています。

ただし、受け身は環境に合わせて形が変わります。硬い地面で前回り受け身や後受け身を行うときは、手を叩く動作を省き、頭部を守るように腕を抱える方法が使われることもあります。これは、硬い土では手の衝撃が大きくなりやすいため、頭部保護を優先するためです。

国内の公園は芝生よりも硬い土が多いため、環境に応じた受け身の習得は特に重要です。また、受け身を補助するサポーターを開発・普及させることも、子どもの安全と挑戦を支える大切な取り組みだと考えます。

受け身の習得と注意点について

次は、受け身を確実に習得するためには、段階的な練習と安全な環境づくりが不可欠です。

最も理想的なのは、柔道・合気道・レスリングなど、受け身を基本とする競技の道場で、指導者から直接学ぶことです。

しかし、そうした機会がない場合は、学校の体育の授業やスポーツの習い事、あるいは家庭で基礎的な動きを反復して身につけることになります。受け身は技術的な要素が大きく、一度の授業や短期間の練習だけでは定着しません。

まさに「凡事徹底ぼんじてってい」という言葉のとおり、基本を繰り返し丁寧に行うことで初めて身につくものです。

練習環境は柔らかい場所を選びましょう。マットや布団の上などが適しています。習得前の段階で硬い床(体育館の床や土など)に倒れると、怪我のリスクが高まるだけでなく、「痛い」という記憶が残り、練習への意欲を損ないかねません。

基本が安定し、より実践的な練習をする際に土やグラウンドに移行する場合は、膝や肘にサポーターを着用し、長袖・長ズボンで身体を保護するとケガのリスクを大きく減らせます。

受け身の習得には、いきなり大きく倒れたり回転したりするのではなく、“低い姿勢 → 基本動作 → 小さな受け身 → 立位での受け身 → 動きの中での応用” という順で、少しずつ難度を上げていく段階的な練習が大切です。

まずは安全姿勢や体の丸め方を身につけ、次に柔らかい床でゆっくりとした受け身を行い、慣れてきたら高さやスピードを加えていきます。このようにステップを踏むことで、恐怖心を抑えながら安全に技術を身につけられます。

安全面で意識するポイント

① 頭を守る(最優先)

  • 顎をしっかり引く+おへそを覗く意識を持ちましょう。
  • 頭が地面に近づかない軌道をつくりましょう。

手をつかない癖を徹底する

※手だけで衝撃を受け止めようとしない。

  • とっさに手を突くと手首・肘・肩を痛める可能性が高くなります。
  • 手は体を支えるためではなく、衝撃を散らすために使います。(補助的役割)

③ お腹の軽い腹圧をキープ

  • 体幹が安定して衝撃を逃がしやすくなります。
  • 固めすぎず、フニャフニャにもしない動きや姿勢に応じた調整をしましょう。

動作の技術面で意識するポイント

④ 体を丸くする(カーブをつくる)

  • 背中・肩・腰が滑らかにつながった弧を描く動きを意識しましょう。
  • 角があると「ドスン」と衝撃が一点に集まり、ケガのリスクが高くなります。

⑤ 回転は“速すぎず遅すぎず”コントロール

  • 衝撃を流すために多少スピードは必要になります。(転倒するスピードが速い場合、受け身のスピードも速くなることが多い)
  • しかし軌道がブレるほど速くしてはいけません。(受け身の技術に依存する部分が大きい)

⑥ 力を入れるのは必要最小限

  • 固まると動きが小さくなったり、スムーズな動きができなくなり受け身が発揮できません。
  • 脱力しすぎると軌道が崩れやすくなり、「しなやかさ」が大切になります。

⑦ 接地の順番を意識する

  • 肩 → 背中 → 腰 (後回り受け身)など面を広く使うことを意識しましょう。
  • 一点に落ちるのは衝撃が集中するためNGです。

感覚面で意識するポイント

⑧ 倒れる方向に逆らわない

  • 無理に踏ん張るとねじれたり転び方が悪くなります。
  • “倒れるなら倒れる動き”(受け身)に変換して転倒による衝撃を分散する意識を持ちましょう。

⑨ 恐怖心を減らすための低い姿勢で練習

  • 怖さがあると身体が固まり、正しい受け身ができなくなります。
  • まずは『座った姿勢 → 膝立ち → 中腰 → 立位』の順で段階的に練習しましょう。

⑩ 痛くない増やし方をする(小さく → 大きく)

  • 痛みがあると脳が拒否して身が入らず上達が遅れます。
  • 常に「ちょっと余裕がある段階」で練習しましょう。
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受け身の習得では頭を守る・体を丸める・手をつかない・腹圧で体幹を安定させる・痛くない段階で反復するこの5つが特に重要です。

受け身では防ぎきれないケガの可能性がある場面

ここまで、転倒に対する「受け身」の必要性を唱えてきました。「受け身」には汎用性があり、転倒に関する広い場面で適用できます。

しかし万能性までとはいきません。受け身には“守れる領域”と“限界”があります。

要するに広い場面に適用できるが、全ての状況をカバーする万能技術ではないということです。

以下に想定されるケースを4つにまとめました。

①予測不能な“巻き込まれ”や“衝突”が起こる場合

受け身は「自分が転ぶ」場面を想定した技術であり、外部から強い力が突然加わる事故には対応しにくいことがあります。例えば、スポーツ中に不意に足や体を絡められてバランスを失った場面が挙げられます。

受け身は「自分の体勢をコントロールできる範囲」で機能するため、外力が大きい場合はケガの回避が難しいことがあります。

②地面の環境が極端に悪い場合

受け身が正しく行えても、接地面が危険だとケガは避けにくいです。例えば、濡れて非常に滑りやすい面や石・鉄製品・突起物・硬い角にぶつかることが挙げられます。

安全に「丸く転がる」「衝撃を逃がす」といった動作が物理的に不可能な環境では限界があります。

③体勢が極端に崩れて受け身姿勢に移行できない場合

体を丸める・手をつかない・力を分散させるなどの準備が必要ですが、転倒の瞬間に体勢が整えられないと技術が使えない場合があります。例えば、足が絡んで完全に後ろ向きに倒れ込むことや前方に強く引っ張られ、ねじれたまま地面へ倒れることが挙げられます。

特に子どもは体幹の安定性が十分に発達していないため、急な重心の変化に対して受け身の体勢に移る前に転倒が起こりやすいことがあります。

④過度なひねり・ねじれを伴う転倒

受け身は“衝撃を逃がす”ことには強いですが、関節のひねりやねじれによるケガは回避が難しいことがあります。例えば、手足が引っかかった状態で身体だけが回転することや転倒時に足首だけ地面に固定されてしまうことが挙げられます。

このような状況では、正しい受け身ができても靱帯損傷・捻挫・筋損傷などは完全には防げないことがあります。

以上のように受け身が功を奏す場面には限界があります。もちろんその時の当人の受け身の習熟度やコンディション、服装・装身具、転倒状況など多様な要素が関係して起こるため、みんながみんな同じ結果になるとは言えません。

不可抗力的な転倒は特に受け身を発揮しにくくなります。そのため受け身の習得だけでなく、事前のハザードの確認をすること、状況に適した服装や装身具の着用するなど総合的な対策も必要になります。

最後に

最後までお読みいただきありがとうございます。

「受け身」を習得することで、転倒による頭部損傷をはじめとしたケガに対するリスク管理に貢献できると考えます。

自分の身体がどの位置にあるか・どの方向に動いているかを感じ取る力が育ち、転倒以外の場面でも、姿勢の安定・動きの正確性・怪我予防に役立ちます。

そして、どんな姿勢だと転びやすいか、どう動くと痛めるのかなどを自然と体感し、危険を事前に察知する能力(リスク感受性)を育てる効果もあります。

また「受け身」を習得することは、上記だけでなく「転んでも大丈夫」という経験から自己肯定感や自信を高め、積極的に挑戦できる運動やスポーツの幅も広がります。

受け身の習得は 一朝一夕 で獲得できるものではありませんが、命に係わる事故を減らす可能性があることを考えれば、学校教育やスポーツクラブなど多様な環境の中で、実施することに意義があると思います。

私は、受け身の習得が自転車の練習と同じように、子どもの成長の一部として当たり前に取り組まれるようになることを望んでいます。受け身が広く普及すれば、ケガを防ぐために行動を制限するのではなく、危険に自ら対処できる力を育てるという、より前向きな安全教育が可能になります。

また、幼い頃に身につけた安全な倒れ方の技術は、成人期や高齢期に至るまで生涯にわたって役立つものです。

「転ばないことが最善」であることに変わりはありませんが、同時に「転んでも大丈夫な身体」を育てることは、子どもたちにとって大きな財産になります。受け身の習得が自然で楽しい経験として広がり、子どもたちが安心して身体を動かし、のびのびと挑戦できる環境が整うことを願っています。

参考文献

こども家庭庁(2024)『教育・保育施設等における事故情報データベース(記述項目一覧)』
こども家庭庁ウェブサイト,https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/498cdcfd-715a-4e80-b456-32ef4694bafc/46d443d4/20240906_policies_child-safety_effort_database_65.pdf(参照日:2025年10月31日)

独立行政法人日本スポーツ振興センター「令和5年度 学校の管理下の災害(けが・事故)報告書」(2024)
https://www.jpnsport.go.jp/school/anzen/tabid/87/Default.aspx

Gutiérrez-García, C., & Pérez-Bilbao, T. (2022).
A Systematic Review on the Biomechanics of Breakfall Technique (Ukemi) in Relation to Injury in Judo within the Adult Judoka Population.
International Journal of Environmental Research and Public Health, 19(7), 4259.
https://doi.org/10.3390/ijerph19074259

Sterkowicz-Przybycień, K., Błach, W., & Franchini, E. (2024).
Evaluating the effectiveness of an exercise program based on the Adapted Utilitarian Judo program by analyzing fall competence in older adults.
Experimental Gerontology, 193, 112345.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40450210/

Imamura, R. T., Hoshina, Y., & Kudo, T. (2021).
A 10-week judo-based exercise programme improves physical functions such as balance, strength and falling techniques in working age adults.
Journal of Sports Medicine and Physical Fitness, 61(4), 499–507.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33865349/

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